
「自転車の左側走行厳守」を呼びかけてきた疋田智さん。警察庁の方針を評価している(疋田さん提供)
警察庁が自転車の左側通行規制を可能とする方針を打ち出したことについて、「自転車は左側通行厳守」と訴えてきたTBSプロデューサーの疋田智さん(44)は「事故を減らすための進歩だ」と評価した。
毎日自転車通勤する疋田さんは「自転車ツーキニスト」を名乗り著書や講演会、メールマガジンでメリットを強調する。自転車の活用に関する政策も提言し、国の審議会などで発言してきた。
疋田さんは車道の左端走行を心がけているが、右側通行の危険性を実感したのは10年ほど前だ。路上駐車の陰から突然、こちらに向かう自転車が飛び出してきた。しかも、対向する車を見ているため車道側によけず、自分が大きく車道側にはみ出した。健康やエコ志向で自転車がブームになると右側通行の自転車は増え、片道12キロの通勤で4、5回遭遇することもあった。
08年に出版した著書「自転車の安全鉄則」で、「左側通行で自転車乗車中の死者を半減できる」と提言した。右側通行して交差点に入ると、右から来る車に直前まで気づかれず、出合い頭事故の可能性が増える。専門機関の調査によると、より死亡事故になる確率が高い車との正面衝突は、追突の4.6倍も発生している。
車道で自転車の右側通行は禁止だが、現実は守られていない。警察庁の方針について、疋田さんは「自転車利用者に交通ルールを守る意識を高めてもらういい機会になる」と指摘する。
歩道や自転車道を左側だけしか通行できなくなると、目的地まで回り道を強いられるケースも出てくる。だが、疋田さんは「自動車やバイクは不便でもルールを守る。自転車だって同様で引いて歩けばいい」と言う。
さらに、歩道を歩く視覚障害者や高齢者にとって、音もせず近づく自転車は恐ろしい存在で「一方通行なら予測できて安心して歩ける」と話す。自転車道が左側一方通行になれば、その分、道路に余裕ができて、沿道商店街の「自転車道があると荷降ろしできない」との苦情も解決できると分析する。
ドイツやオランダを訪れた際に印象に残っているのは、一方通行する自転車だ。うっかり反対側を走り、高齢男性にものすごく怒られた。今回の標識適用は都道府県公安委員会などに任される予定だが、疋田さんは「左側通行が基本という流れにすべきで、どんどん活用すべきだ」と要望した。【馬場直子】